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まぼろし物語

採算を度外視した市販酒

市販されなかったリンゴ酵母の大吟醸

しかし、このようにしてリンゴ酵母による抜群に香り高い大吟醸酒が誕生したにもかかわらず、何故かこのお酒は当時市販されることなく、品評会に出品した後は特級酒などに混ぜられていました。

それにはいくつかの理由があるのですが、その一つが当時はまだ吟醸酒という概念が存在しなかったことがあります。出品酒は、あまりにコストがかかるお酒なので、値段が法外に高くなることから、いくら美味しくても売れるはずがないと思われていました。

そして、当時そんな高級な日本酒は誰も必要としていなかったのです。吟醸酒は品評会のためだけのお酒だったのです。また、たとえ高額で販売したとしても、当時の課税制度(従価税)では、コストに見合うだけの利益を得ることは難しいという大きな問題もありました。

「何とかしてこの酒を売りたい」

しかし、元来洋酒党で日本酒が嫌いだった5代目中尾義孝は、初めてリンゴ酵母の吟醸酒を口にしたときに、その美味しさに驚き「これなら自分にも飲める、何とかしてこの酒を売りたい。」と考えるようになりました。
坂口謹一郎夫妻と5代目中尾義孝
坂口謹一郎夫妻と5代目中尾義孝
そして、1974年(昭和49年)ついに、いくつもあった難題を乗り越え、採算も度外視して、リンゴ酵母で醸した純米大吟醸酒を「幻」という名前で発売しました。全国1位受賞から26年目のことでした。
発売当時の雑誌の記事
発売当時の雑誌の記事
最初の年は、1800mlに8,000円という破格の価格を付けて100本販売しました。普通の1800mlの日本酒が800円の時代です。それで、どうなったかというと、「そんな高い酒が売れるはずがない」と周囲からバカにされる中、あっという間に完売してしまったのです。どうして売れたかという理由は簡単で、今までのお酒と比べて明らかに美味しかったからです。
初代「幻」のラベルと瓶
初代「幻」のラベルと瓶

まぼろし物語一覧

  • Story01:「幻」のリンゴ酵母、発見
  • Story02:7年をかけた醸造技法の開発
  • Story03:「忘れられない感動」
  • Story04:採算を度外視した市販酒
  • Story05:発売2年目に予約殺到